【ステラ・アドラー・システム③】~完結編~

~前回までのあらすじ~
演技が確実に上達する方法はまだ確立しているとは言えない + 俳優さんのニーズの変化 → 若かりし頃、僕が派手にやらかした体験談をベースに面白おかしくお話ししました。


改めて自己紹介をすると、僕は、都内でキャスティングとアクティングトレーニングを生業としている演技指導技師のSakuと申します。


大体年間400~500現場を演技技師として携わり、年単位で約10000症例を扱います。

演技指導に携わる時間は、月間概ね300時間~400時間が目安です。

簡単に言えば、様々な演技のエラーや不都合を解消する『演技のお医者さん』ですね。



今回は前回から続いている【ステラ・アドラー・システム】編の完結編です。


これまで様々な例を出し、過去に僕が体験したことをベースにお話ししてきましたが、誤解がないように先にお伝えしなければならない事があります。
僕は特定の流派を悪く言うつもりは全くありません。

各流派の保持する独特の目線やアプローチは、どれも面白いと思います。

流派に拘らず、腕の立つ俳優さんが生涯をかけて研鑽されてきた演技方法についても、同様に素晴らしい内容だと思っています。


私の所に来るクライアントさまは、色々な演技上の不都合や不健康を僕に報告してくれます。

中でも多く感じられるのが、話し手と受け手のすれ違いですね。


勿論、発信者側の方々が素晴らしい感覚や感性・スキルをお持ちであることは確かでしょう。

しかし、その感覚を全員が体感・納得・理解できるような言語に置き換える必要がありますね。

更にその言語を話すにあたって、受け手の方々に伝わりやすくするために「TPOを踏まえ」「(受け手の皆さんが)インストールしやすい言語を用いつつ」、負担が無いように話していかなければなりません。

“理論的に説明されることを嫌う人” に、 “理論的な言葉” で話すと苦手意識がでますよね。
(水タイプのポケ●トモンスターに100万ボルトを喰らわせるようなものですね。そこの効果をバツグンにしてどうするんだ)


つまり、“自身の感覚” を “他人の感覚” だとどう受け取るか&捉えるかを検証しなければならないんです。



随分長くなりましたが、改善と実施の方法論としては以下になります。


まず、イマジナリー系統(プレイヤーに想像力を使わせる系統)では、プレイヤーは頭脳を使いがちです。

えっ、想像力を使うって頭でやるもんじゃないの?と思う方も多いと思われますが、それをやってしまうと、「もっとリラックスして」とか「1人きりで演技をやっている」「会話になっていない」と言われがちです。

ややもすれば「もっと感じて」とか「頭を使って」と矛盾しがちなサイドコーチやディレクションが飛んできます。


(多くの品行方正な俳優諸氏の皆さんもこの言葉には覚えがありませんか?ちなみに若い頃、僕は『めっちゃ矛盾しとるやんけ。』と心の中で壮大にツッコミを入れておりました笑)


ただ、今になると言わんとする事は良くわかります。どれもこれも間違ってないのです。

話し手の感覚では『そのように処理されている』ことに変わりありません。

そして、それを長年かけて熟成させ、ご自身のコンテンツに昇華させたのでしょう。

しかしながら、ここで悲劇が起こります。


悲劇の理由。それは、話し手と受け手の感覚の差=個体間で想像する幅の差(クオリア)が存在するからです。


10人の人間をそれぞれ個室にブチ込み、「赤という色を思い浮かべてください。連想した物を答えてみてください!答えるまでここから出られません!」と聞いてみたとします。

同じ答えはほぼ出ません。

ちなみにこれをお読みになっている品行方正な俳優諸氏の皆さんは何を想像しましたか?


今の問いを踏まえ、更にステップアップします。


それでは想像してみてくださいね。レッツ イマジン!




あなたは “小さな喫茶店” でコーヒーを飲んでいました。


落ち着いた店内にはジャズが流れています。

店内では、ダンディーなナイスミドルの “マスター” が窓の外を見つめて、珈琲豆を焙煎しています。

お客さんはカウンター席に座った “あなた” と、背後に若い20歳くらいの “カップル” しかいません。

時間は午前11時を過ぎた頃で、4月になったばかりの小春日和。


あなたの耳に小声で、カップルの話し声が聞こえてきます。

どうやらカップルは 《別れ話》 をしているようです。

声はとぎれとぎれですが、彼女さんの方が彼氏さんへの不満を口にしているようです。


しばしの問答があり、別れる流れに会話の方向性は流れていき、やがて会話は途絶えました。

間もなく、別れようとどちらかが切り出すでしょう。

店内のジャズはいつしか物悲しい曲調に代わり、別れのムードを誘います。


数分の沈黙を破り、彼女さんが涙を堪えつつ彼氏さんに話しかけます。


「ねえ、私の考えてる事、わかる?」


皆さん、如何でしょう。

彼女さんの考えている事がわかりますか?

僕はそう聞かれたら、こう答えると思います。


「いや、知らんがな。」と。


辿り着かざるを得ない答えに辿り着きますね。


察する事は出来ますよ!?でも、ねえ……。

わからなくないですか?
っていうか、わからないんです。正確に言うと『100パーセント理解できるという事象』は起きません。


つまり、他人の言う事を100パーセント理解できる事は事実上不可能です。
感覚論を落とし込む際の致命的な溝。俗に言う、演技の落とし穴 (個々の感性の不一致) というヤツですね。


まず科学化……というより、そこまでではなくとも、話し手はこの落とし穴をせっせと埋める所から始めないと行けません。

話し手と受け手の間で、“結構な損” が生まれる原因の大半がここに存在しています。


まさに『名プレイヤーは名監督とは限らない』

長い前振りが終わってようやく本題に入ります。


名プレイヤーは名プレイヤーで間違いがないと言ってよいでしょう。

言い換えれば、それは “独学の達成者” です。


それを他人に伝えようとすると、


自分が他人に伝えようとしている内容を分解

受け手が理解しやすい言語を話す回路の開発 
+ 
自己と他社の想像力の差の研究(クオリアの研究)


が必要です。


しかし、それが出来たとしても『他人に特定の行動の内容を伝達する』点においては条件を満たしましたが、『誰もが理解出来る状態』までは残念ながらリーチがかかりません。

そこから更に『万人に必ずインストール出来る状態』にもっていかないといけません。


ここまで来てようやく「科学的」であると僕は感じます。


恐ろしい事に、数々の矛盾はありますが、『学校教育』はどうあれその基準を満たせるようにカリキュラムが組まれています(100パーセントではありませんが)。

算数で「1+1」は?と問われたら、多くの社会人の方は「2」と答えますよね。



僕にステラ・アドラー・システムを解説してくれたマスターティーチャーは、これに気付くきっかけをくれました。


「どうして、同じ人に教わって、アイツは出来て、僕は出来ないのだろう。」

お金を支払うのに、そんな気持ちにはなってほしくありません。

「僕も出来た。アイツも出来た。そして、いい芝居と成長があった!」

こうありたいと思います。


ここを踏まえて、どうして演技の成長が遅くなってしまいがちなのか。という命題に取り掛かります。

とは言え、範囲が広いので限定的に説明します。


今回は若かりし頃、僕がドン詰まった「イマジン・イフ」を元に説明します。

わかりづらければ、「演技面において“想像力”を使う際、どのような落とし穴があるか?」という命題に置き換えてください。上記を“科学的”にお話しします。


では説明していきます。

人間は想像系統(詳しくは長くなるのでワークで取り扱いますが、脳内で想像=空想上のクオリアを操作しようとする系統です)を使用した際、どうしても脳内で考えようとするため、意識がそちらにシフティングします。


その際、脳内物質(ノルアドレナリン優位の状態)が発生します。

過度にこの状態で行動を起こそうとすると、周囲への注意が払えない状態に陥ります。

この状態が「独りよがり」「会話にならない」「リラックス状態に見えない」状態の正体です。



つまり、過度のノルアドレナリン優位ではなく運動系優位(アドレナリン優位の状態)で行動を起こすところまで持っていかなければなりません。

正解を言うと、動作系統で行動を起こす回路に自然と切り替えられる状態に持っていかないといけません。そうでないと、“学校や社会”でノルアドレナリン優位になりがちな教育を受けている品行方正な俳優諸氏の皆さんに、ほぼ確実に【エラー】という悲劇が訪れます。

そうなると、こういう言葉が飛んできますよね。

「もっと感じろ!(ノルアドレナリン状態ですよ!)」

これが矛盾の正体です。



そのため、トレーナーは、「頭脳を使用してアウトプットする際に行動系に切り替える誘導」を行わなければなりません(優れたプレイヤーで、講師サイドに立たれた方はここを見落としがちです)。

また、その誘導自体を促すコンテンツ(促進演技術)は別のコンテンツを組まないといけませんね。


1+1=2になりますよね。この数字の間にある「+」の感覚をコンテンツ化する必要があるんです。

僕はこの事を「バイパスワーク」と命名しています。


バイパスワークを備えた上で演技促進を脳科学から解消すると、結構な速度でインストールが可能です。

当時、数年かかって修める必要のあった「イマジン・イフ」やイマジナリー系統のワークですが、今では5~10分あれば簡単に落とし込むことが可能です。

(これ以上は企業秘密なので、ぜひワークでやりましょう!)


さて、ここまで書いてきましたが、上記の内容は2014年に開発し終わり検証に検証を重ねました。

今では当時のコンテンツを数十回バージョンアップし、より進化を遂げています。

こんな調子で研究しているものですから、おかげで演技の事について分解できないコンテンツはほぼ無くなりました。(現場前のトレーニングでは必須ですしね)



その完成形が、TAS studio の所以たる、「Trance Acting System」です。



昔はノルアドレナリン優位やアドレナリン優位の関係も企業秘密だったのですが、今は演技指導業界の促進を祈り、公開する事に踏み切りました。

これを上手く使えば、世界中の流派で発生しがちな“インストールする際のエラー” や “時間的損失” にかなりの改善が見込まれるでしょう。

だって、ノルアドレナリン過多をどうにかしようとするサイドコーチが圧倒的に多いですから(勘の良い人であれば気付くでしょう)。


勿論、話し手側の努力だけではダメですよ。

受け手側もこれを理解しつつ、トレーニングしましょうね!

(グラ●プラー 刃牙の如く、リアルシャドーを行えるくらい育ちましょう。)


練習してもあんまり上手くならない事には原因があります。
練習すればするほど、上手くなれる。そういう構造にしていきましょう。

諦めないでください。絶対に上手くなる方法は、あります。
(ちょっと構造改革が必要ですけどね。)

では次回も、僕が体験した面白おかしい失敗や考えをベースに解説を行います。

品行方正な俳優諸氏の皆さん。では、また、近いうちに。



~終~


P.S   かつての僕のように気合を入れてメンチを切る品行方正な俳優諸氏の皆さんが1人でも少なくなりますように。くれぐれも令和の品行方正な(以下略)

TAS studio

【舞台・映像・声優・イマーシブ・現場前トレーニング等、演技関連全般に幅広くご対応】 演技や芝居に関するお悩みを解消し、確実な成長に繋げるために、参加者様のご希望に沿った オーダーメイドのワークを行います。

0コメント

  • 1000 / 1000